エンジンオイルを選ぶとき、多くの人はブランド名を見る。
有名メーカーだから安心。
全合成油と書いてあるから高性能。
高いオイルだから良い。
安いオイルだから悪い。
私は、この見方をしない。
私がまず見るのは、基油である。
エンジンオイルは、大きく分けると「基油」と「添加剤」でできている。
添加剤はもちろん重要である。
清浄分散剤、摩耗防止剤、酸化防止剤、摩擦調整剤、消泡剤、防錆剤、粘度指数向上剤。
これらがなければ、現代のエンジンオイルは成立しない。
しかし、オイルの土台は基油である。
どんな基油を使っているのか。
原料は何か。
製造工程は何か。
原油由来の潤滑油留分を精製したものなのか。
水素化処理したものなのか。
高度水素化したものなのか。
PAOなのか。
エステルなのか。
私は、そこを見る。
なぜなら、「全合成油」「化学合成油」という言葉だけでは、中身が分からないからである。
現在の市販エンジンオイルでは、グループ3高度水素化鉱物油を主成分としながら、「全合成油」「化学合成油」と表示されているものが多い。
もちろん、グループ3が悪いという話ではない。
むしろ、グループ3は現代の実用オイルとして非常に優秀である。
街乗り、通勤、買い物、通常の高速道路走行であれば、メーカー指定粘度とAPI規格、ILSAC GF規格を満たし、適切な交換サイクルを守れば、グループ3で十分な場面は多い。
ホームセンターで売っているオイルも、現在ではグループ2の水素化鉱物油や、グループ3の高度水素化鉱物油が使われていることが多い。
だから、安いオイルをすべて否定する必要はない。
問題は、そこではない。
問題は、表示である。
グループ3は、高度水素化鉱物油である。
原油由来の重質留分やワックスを、高度水素化分解・水素化異性化して作る基油である。
昔ながらの鉱物油とは違う。
性能は高い。
しかし、PAOやエステルとは成り立ちが違う。
PAOは、ナフサや天然ガス由来のエチレンからαオレフィンを作り、それをオリゴマー化して作る合成炭化水素である。
エステルは、カルボン酸とアルコールを反応させて作る合成基油である。
つまり、グループ3は改質であり、PAOやエステルは合成である。
この違いは大きい。
私は、ここを曖昧にしたくない。
私の基油分類は、次のとおりである。
グループ1:鉱物油
グループ2:水素化鉱物油
グループ3:高度水素化鉱物油
グループ3+:グループ3を主体に、PAO、エステル、GTL、アルキルナフタレン等で補強したもの
グループ4:PAO、ポリアルファオレフィン
グループ5:エステル、アルキルナフタレン、PAG等の特殊合成基油
この分類で見ると、オイル選びは分かりやすくなる。
グループ3は、実用性能の高い高度水素化鉱物油である。
通常使用では十分な場面が多い。
しかし、本来の化学合成油とは呼ばない。
グループ3+は、グループ3を主体にしながら、PAO、エステル、GTL、アルキルナフタレン等で性能を補強したオイルである。
単なるグループ3より高く評価する。
ただし、主基油がグループ3である限り、PAO主体やエステル主体のオイルとは区別する。
PAO配合とPAO主体は違う。
エステル配合とエステル主体は違う。
ここを見誤ると、オイルの中身を誤解する。
グループ4以上は、PAOやエステルを主体とする本格的な化学合成油である。
PAOは、低温流動性、酸化安定性、熱安定性、蒸発損失の少なさに優れる。
エステルは、金属表面への吸着性、油膜保持性、添加剤溶解性、潤滑性に優れる。
PAOとエステルは補完関係にある。
だから、PAO+エステルという基油設計は理にかなっている。
PAOで安定性を稼ぎ、エステルで潤滑性と極性を補う。
これが、高性能オイルでPAOとエステルが重視される理由である。
ただし、ここでも誤解してはいけない。
PAOだから無条件に最強ではない。
エステルだから無条件に最高でもない。
PAOには弱点がある。
極性が低い。
金属表面への吸着性がエステルより弱い。
添加剤溶解性が弱い場合がある。
シール材への影響を考慮する必要がある。
だから、PAO単体ではなく、エステルやアルキルナフタレン等で補う意味がある。
エステルにも弱点がある。
加水分解、酸価、シール材への影響、コスト、配合設計の難しさがある。
つまり、高性能オイルとは、高価な基油を入れれば終わりではない。
基油と添加剤をどう設計するかで決まる。
それでも、基油の成り立ちは重要である。
グループ3なのか。
グループ3+なのか。
グループ4以上なのか。
この違いを知らずに、ラベルだけで「全合成油だから良い」と判断するのは危険である。
私は、ホームセンターオイルを否定しない。
純正オイルも否定しない。
グループ3も否定しない。
むしろ、普通の使い方ならグループ3で十分な車は多い。
メーカー指定粘度とAPI SP、API SQ、ILSAC GF-6、GF-7等の規格を満たしていれば、通常使用では問題ない場面が多い。
規格は重要である。
API規格やILSAC GF規格は、完成油としての性能規格である。
LSPI対策、タイミングチェーン摩耗対策、酸化安定性、清浄性、省燃費性、排ガス装置保護。
これらを確認する意味がある。
しかし、規格と基油は別物である。
API SPだからPAOではない。
API SQだからエステルではない。
GF-7だからグループ4以上でもない。
グループ3高度水素化鉱物油でも、添加剤設計が優れていれば規格に適合できる。
逆に、PAOやエステルを使っていても、規格を満たしていなければ、指定車両に使うべきではない。
規格は最低条件。
基油は設計思想。
この二つを分けて見る必要がある。
このブログでは、エンジンオイルを感覚や広告文句ではなく、基油、製造工程、規格、粘度、油温、油圧、用途から見ていく。
グループ1は鉱物油。
グループ2は水素化鉱物油。
グループ3は高度水素化鉱物油。
グループ3+は高度水素化鉱物油を主体に高性能基油で補強したもの。
グループ4はPAO。
グループ5はエステル等。
この分類を軸にして、各メーカー、各銘柄を見ていく。
私は、安いオイルを馬鹿にしない。
高いオイルを盲信しない。
有名ブランドを無条件に信用しない。
「全合成油」という言葉だけでは判断しない。
見るべきは、基油の中身である。
そして、表示の誠実さである。
VHVIならVHVIと書けばよい。
グループ3ならグループ3と書けばよい。
PAO配合ならPAO配合と書けばよい。
エステル配合ならエステル配合と書けばよい。
問題は、グループ3を使うことではない。
グループ3をPAOやエステルと同じ顔で売ることである。
私は、そこに違和感を持つ。
このブログの立場は明確である。
グループ3は悪ではない。
ホームセンターオイルも悪ではない。
純正オイルも悪ではない。
悪いのは、中身を曖昧にした表示である。
エンジンオイルはブランドで選ぶものではない。
広告で選ぶものでもない。
基油で見る。
規格で見る。
用途で見る。
油温で見る。
油圧で見る。
交換サイクルで見る。
そして、自分の車に必要な性能を考えて選ぶ。
それが、私のエンジンオイル選びである。